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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

手際がいいというか、あっという間の早業で、重野は逆さにつるされている。

「どうだ、この野郎」

みずからの残虐に昂奮した声で、例のモダン・ボーイふうの刑事が、

「ひとを、なめやがって……エイ」

竹刀に力をこめて、重野の背をぶったたいた。

キナ臭いにおいがした。それがすぐ屍臭に変った。屍臭が俺の鼻に蘇ったのか。それとも重野の身体がほんとにそんな臭いを放ったのか。

「分ったか……この野郎」

ビシリと竹刀が鳴った。

「う……」

重野の口から断末魔のようなうめきが洩れて、

「コロセ……殺せ」

低いが、はっきりとその声は俺の胸を貫いた。

血がさがって、屠殺場の肉片みたいに真赤になった重野の顔は、俺の血をも逆流させた。俺は道場へ飛びこんで行って、重野を助けてやりたくなった。

「おい! なにしてる」

巡査の声がなかったら、ほんとに俺はめくら滅法に飛び出して行ったろう。

「お前も、あいつの一味か」

ガチャ(巡査)と俺が見たのはカマリ(留置場)の看守だった。エンコジョウ(手錠)をはめられた男が二人の看守にはさまれて、そこへやってきたのだ。

なんと、その男は丸万ではないか。ベルトを取られたズボンを、手錠のため自由のきかない手でおさえながら歩いてくる。