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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

その尻が部屋から消えかかったとき、丸万がテキヤのチョウフ(隠語)で、

「ガセビリ(淫売)にしちゃ、ハクイ(いい)ナゴ(女)だ」

と俺にささやいた。低い声だったが、クララの耳にはいったらしく、ひょいと振り返ったクララは、分るわよといったこわい顔をして見せた。

「俺にゃ、なんのことか分らねえ」

と俺は首をすくめた。

クララはとんとんと階段を降りて行った。ついぞこれまで、クララがあんな足音を立てるのを聞いたことはない。どういうんだろうと俺はその足音に耳を傾けながら、

「いい子だろう」

とまた丸万に言った。

「あんなハクイ子がどうしてガセビリになったんだろう」

そう言って、丸万は脂の浮いた顔をつるりと手で撫でおろして、

「ヒモがついてるんじゃねえかな」

「ヒモが? ついてたって、かまわねえ」

と俺は力んで、

「気立てのいい子だぜ。ヒモがついてるような女とは思えないが」

「それが臭えのさ。そういう子にかぎって、男の食い物になるんだ」

「俺の女に、ケチをつけようってのかい」

「おめえの眼も節穴になっちまったのか」

「俺はあの女を、どうあっても、俺のものにしてみせる」

俺は拳を固めて、ちゃぶ台をたたいた。