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いやなかんじ
いやな感じ
高見 順
「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页
きたねえことをしやがると俺は顔をしかめたが、すぐ、
「いや、これでいいんだ。このほうがいいんだ」
と自分に言いきかせた。汚濁にまみれた俺が、それをきたないなんて言えた義理ではない。俺自身のほうが、よっぽど、きたない。
しかしこの場合は、そんな理窟の問題じゃなかった。きたない俺が、俺自身ちょっとためらっているくらいのきたないことをこれからしようとしている(――それは単に淫売を買うというだけのことではなかった)。そのため、この俺としては、いわば前もって、きたないものを眼の前につきつけられるようにして見るのは、いやだった。
俺たちは、上にあがることになった。そうときまると、女は急にしゃきしゃきと立ち動いて、砂馬の手を取って引っ張りあげるようにした。鈴が鳴った。
「ちゃぐちゃぐ馬こみてえだな」
と砂馬は言って、階段をひとりで昇って行った。
俺が靴をぬいでいると、
「あんた、ウブね」
と女が俺の肩をたたいた。
俺は心を傷つけられた。知っちゃいねえなと言いたいところだった。二十二歳という齢が俺をウブに見せたのだろうか。
「あんたは運がいいよ」
姉さんぶった語調でそう言って、女は細いしなびた手をのばして、俺たちの靴を取った。