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いやなかんじ
いやな感じ
高見 順
「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页
「あたいのお父うさんは支那浪人……」
え? と俺が思わず大きな声を出したとき、
「クララさーん」
階段の下から婆あが呼んだ。いつだって憎たらしい婆あではあるが、このときほど、俺は婆あを憎いと思ったことはない。
クララは大急ぎで洋服を着ながら、
「兄さん、帰る?」
四郎さんを、また、兄さんにして、
「どうする?」
と言ったが、俺を帰らせたいふうだった。ねばるつもりだった俺に、クララはそれをすぐ口に出して言った。
「つらいから、帰って……」
他の客を取っていることを、まざまざと俺に知られるのはつらいというのだ。クララはズロースをくるくると丸めて、ベッドの下に突っこんで、
「ね、そうして」
と言って、俺に別れの接吻をして、
「兄さんの言葉は忘れないわ。あたいをそんなにまで思ってくれて……」
「俺はすぐ金を作って、照ちゃんを迎えに来るよ」
業つく婆あが下から、またもや、せっついた。
「クララさーん」
「はーい」
クララの身うけの金を調達するために、俺は砂馬に会ったが――やっぱり金のこととなると砂馬に会わねばならなかったが、今はそのことよりも、ここで一刻も早く言っておきたいことがある。