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いやなかんじ
いやな感じ
高見 順
「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页
やっと、ま、おさまったけど」
と二階を指さした。その二階から、
「おい、なにしてんだ」
と砂馬がどなった。
「いま、行く」
俺は砂馬をすでに裏切っているようなやましさを覚えた。砂馬は俺より六つ年上である。
二階の小さな部屋は、ベッドだけが大きかった。部屋が小さいのでベッドが大きく見えただけで、それはシングルベッドである。壁にぴたりとくっつけてあるが、その壁紙には雨漏りのしみが、ツララのさがっている形を描いていた。剣のようにも見える。
ベッドの枕もとには、施療病室を思わせる小さなテーブルがすえてある。なまじっか、花のない花瓶が置いてあるのが、かえって佗しい。赤や緑のあさましい色ガラスをはめこんだ窓から、下のぞめきが聞えてくる。バラック建てだから、音のほかに隙間風も吹きこんでくる。
俺がこう言うと、さも俺は上等の部屋に住んでいたかのように見えるが、そういうわけじゃない。俺の下宿も、似たり寄ったりだ。下宿は、しかし、俺ひとりがただ寝るだけのところだ。
女と寝る部屋は、もうちょっと、なんとか、色気のある、なまめかしい――とまで行かなくても、もうすこし、まともであって、いいんじゃないか。