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フレップ・トリップ
フレップ・トリップ
北原 白秋
「女性」プラトン社、1925(大正14)年12月号~1927(昭和2)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,698 字 · 293 页
」
「でも、冬はたいへんでしょう。」
「ええ、それはもう。」と流石に肩をすぼめたものである。
見まわすと、窓の上、四方の板壁には、フランクリン、リンコルン、ビスマークだ、西郷南洲、そうした世界的英雄の廉物の三色版がさも大業に掲げられてあった。なるほど、此処は明治の二十年代だなと思うと、果してどんな教育が行われているものかと微笑された。
「童謡はやっておいでですか。自由詩は。」
「いや、一向にまだやらしておりません。内地にいました時は、考えてもいましたが、こうした辺鄙な処では、ごくごく程度が低いのですからな。お恥かしい次第です。」と教員さんの一人がすっかり恐縮してしまった。
生徒といえば、あの納壺の熊の毛皮の傍にいた赤毛の大目玉の女の子や、アイヌ式の、または劉生式の童男童女どもだろうと思うと、それもあわれであった。
艀の幾度かの往復に、自分たちの順番を待つ間を、私たちは、そのとっつきの鑵詰工場の中へはいって見た。仕事は休んでいると見えて、その板敷きの広間はガランとして、例の大きな樺太犬なるものが獅子のように傲然とその真ん中に蹲っているだけであった。ただ、これも大きな一つの溜桶に透明な掘貫きの水がなみなみと溢れ、こんこんと湧き出ているのが珍らしかった。