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フレップ・トリップ
フレップ・トリップ
北原 白秋
「女性」プラトン社、1925(大正14)年12月号~1927(昭和2)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,698 字 · 293 页
奥では燻製の鰊や、蟹の鑵詰の鑵や、シトロン、麦酒の瓶などが、売品として、二、三の卓上に飾り立ててもあった。間の即製のビラを見上ると、
黄ストロン 一本参拾銭
赤キング 一本参拾銭
水雷サイダア 一本弐拾五銭
と拙い字で、しかも赤インキで丸々をつけたのが、「なるほど此処は樺太だわい。」とおかしがられた。
その黄ストロンをまた一本あけてもらった。
*
本船へ帰ると、私たちは初めて自分たちの塒に戻ったような気安さを感じた。何かさびしい、あっけないような国境の印象であった。
午後には、やや西の方が霽れかかって、時が経つにつれて、赤いぼやけた雲の色になった。日が短くて、薄ら寒い空気であった。
能楽の笛がまた何処かの甲板に鳴り出した。
人々はまた椅子を持ち出し初めた。ずらりと外洋を向いては並んでいる。
「赤化は絶対にいかんです。」と誰やらが叫んでいた。
「とにかく、現代はあまりに無秩序です。学生間にでもですな、この際大いに尊皇の精神を鼓吹せなくちゃならぬ。そこでですな。私は天照皇太神宮と、阿弥陀仏と、我が皇室と、この三体を一つに祭って、いやその祭壇を私の家庭にこさえたのです。