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フレップ・トリップ
フレップ・トリップ
北原 白秋
「女性」プラトン社、1925(大正14)年12月号~1927(昭和2)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,698 字 · 293 页
桟橋へ上って見て私の第一に喜んだのは、その前の広場に群って客待ちしている簡素な馬車の幾つかであった。せいぜい四吋ばかりの波型の幌飾りが四方を取りまわして、その幌飾りの縁が青で、それが八月の微風に涼しげにそよいでいた。極めて開放的で、無雑作に黒と赤との板枠をはめた座席の上の空間には細い四本の柱が立っているきりであった。
「こりゃいい、ひとつ後で乗って見たいね。」と私はいった。
「よかろう。」と庄亮も御機嫌だった。メリヤスのズボン下の尻端折で、リボンもない台湾パナマの帽子をヒョコッとかぶって、不恰好な大きな繻子張りの蝙蝠傘を小腋にかかえ、それから歌のノートを取り出した。
「写生しておいてくれよ。」というから、
「よろし。」と私も早速黄色い小型のノートを開いた。
空はよく晴れていた。そうして真岡の街は歓迎門が建ち、黄や赤や緑や紫の万国旗で賑々しく満飾されていた。つい一日前に摂政宮殿下の行啓を仰いだのであった。行啓気分が到る処に充ち満ちて、まるでお祭りであった。で、私たちは素顔としての素朴な樺太女「マウカ」へ会える、親しい、それでも物果敢ない旅人としての私たちの期待を裏切られた。