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フレップ・トリップ

フレップ・トリップ

北原 白秋

「女性」プラトン社、1925(大正14)年12月号~1927(昭和2)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,698 字 · 293 页

青空文庫

と、「先生はおいでですか。」と誰やらがいきなり飛び込んで来たものだ。

「明日仮装会をやるんだそうで騒いでいますが、皆さんに御賛成を願います。なんでもこちらに出ていただかないと、どうもなりませんで。二等船客総代という格で伺った訳なんですが、是非どうかひとつ御声援を。ええ。」

「うむおもしろか、やろ。」とY。

「これでいいんですか、この支那服のままで、それならかまいませんよ。」

「やあ、結構です。ではお願いします。どうせまた明日引っ張り出しに来ます。」

「いやあ。」といっているうちに、またポンと飛び出してしまった。

心は安く、気はかろし、

揺れ揺れ、帆綱よ、空高く……

まったく汽船の旅はいいなと思う。ことに夏の海上くらい爽快なものはなかろう。

第一日は室内の整理やら、入浴やら、何かとそわそわとして暮れてしまったし、明るい食堂の晩餐をも虔ましく片隅に寄って済ました。それから一等の談話室を覗いたり、甲板の籐椅子へもたれて見たり、自分の寝台へ帰って仰向いたり、まだ十分の落ちつきは得られなかった。甲板での活動写真の催しも、いたずらに人寄せの技師が不馴れで、ただ急造の白幕に白い円ばかりを出して、そのままコチコチコチコチで中止になってしまった。