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フレップ・トリップ
フレップ・トリップ
北原 白秋
「女性」プラトン社、1925(大正14)年12月号~1927(昭和2)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,698 字 · 293 页
あ、たしかに鷲だ。
鷲は飛ぶ。飄としてまた流れて、翼を撓めて、あ、大きく張った。
向うところは韃靼の黒い遥かな大うねりの波濤の彼方である。
鷹ひとつ見つけてうれし伊良古崎 芭蕉
これだなと私は思った。
あ、アイヌが先刻から見あげていたのは、あ、これだったか。
青い青い空ではある。
汽車は駛る。
汽車は鉄橋にかかり、潺湲たる清流の、やや浅い銀光の平面をその片側に、何かしら紫の陰影をひそませた、そして河原の砂の光った、木の橋がある、そのつい下手を駛って轟とまた響きを立てた。
「皆さん、鰊漁のお話をいたすそうです。」札幌鉄道局のS君が戸口で、立って帽子を脱った。前額の禿がてらてらと光る。少い髪を櫛目を透かしてぺっとりと撫でつけている。
まだ若い車掌が、切符改めの通りすがりを、赤い顔して、引き留められて、克明にハッと頭をさげた。
「こりゃいい。頼みますぜ。」
と、誰かが手を拍いた。
旅へ出ると老人組までが、いや却って茶目にもなる。
ピーと、またタゴール爺さんが口笛を吹いた。
「へえ、へえ。」と、車掌は目を伏せて、「ちょっとちょっと。」と間を頭を下げて、手を戴くように、前の車へ切符拝見と出かけそうに、行きかける、それをタゴールさんが、矢庭に引っ捉えると、無理に自分の座席の隣りに抑えつけてしまった。