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フレップ・トリップ
フレップ・トリップ
北原 白秋
「女性」プラトン社、1925(大正14)年12月号~1927(昭和2)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,698 字 · 293 页
早や影もないのだ。
待てども待てども玉子焼きは出て来ない。
「按摩でも呼ぶかな。おい姐さん。」
「玉子焼きはまだかい。おい姐さん。」
かれこれ一時間も経ったか。やっと、両手でウントコサと擁え込んだのを見ると驚くべし、直径一尺五寸余もあろうと思われる雅味のない大皿に盛りも盛ったり、恐らく十人前は焼いたであろうところの部厚な白斑の玉子焼きである。それにおおかたは冷めきっている。そうだろう。これくらい多量に焼くうちには何の温みも飛び去ってしまうであろう。
「おい。二十四匹の黒鶫封じ込まれてパイの中。というマザア・グウスの童謡があるが、この玉子焼きなら三、四十匹の二十日鼠は棲めそうだな。いささか非常識だね。」
「おもしれえ、おもしれえ。」
(ここで書き添えて置くが、この玉子焼きは翌日の勘定書には拾何円とか書き出されていた。)
外はあかるい電光飾。
*
エンヤラヤアノ、エンヤラヤアノ、エンヤラヤアノヤアヤ。…………
「あ、やってるな。」
山の手寄りの駅の空では赤や緑の電灯が深紫の闇の中に煌々と二列に綴られていた。何かまたほうほうと汽笛のけはいもした。私たち、庄亮と同じく褞袍着のタゴール老人と私とは、うち連れて、冠木門に見越しの落葉松といった風の軒並の前の、うち湿った暗い通りをあるいていた。