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フレップ・トリップ

フレップ・トリップ

北原 白秋

「女性」プラトン社、1925(大正14)年12月号~1927(昭和2)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,698 字 · 293 页

青空文庫

夜はもう十時に近かったろう。

たまさかに、障子が橙色の灯影に燃え立つように明って見える二階はあったが、それでもまだ素見の客の姿も、そこらの格子戸の中には見透かせなかった。

だが、こうした見知らぬこの北方の夏の夜の雰囲気の何処かで、内地で聴くようなあの三絃の音締めがして、そしてあのエンヤラヤアノヤアヤである。

大きな貸座敷風の構えも一戸二戸はあった。大概はまた待合風の怪しい景情であった。

「よう。目っけましたよ。あっはっはっ。」

N老人が突然立ち留って、上を仰ぐと哄笑した。

土蔵風の階上の窓は開かれて、その窓の欄干に横向に凭れて、そのまたほろ酔の棗面を外気に吹かれていた。Dさんだ。初め私は中学校長かと思ったがそうでもないらしかった。温厚な人柄らしかった。すっ込もうとしたが、どっこい、N老人そうはさせない。

「押しかけますぜ。ないしょごとはすぐ暴露れまさあね。お連れさんは誰方ですい。」

「や、これは、上りたまえ。」

今は仕方なしという風、それで、どかどかと這入って、何処だ何処だと、梯子段から上って、やあやあやあである。

「これは驚きましたね。かねての謹厳組たる皆さんが。