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フレップ・トリップ
フレップ・トリップ
北原 白秋
「女性」プラトン社、1925(大正14)年12月号~1927(昭和2)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,698 字 · 293 页
そこで、水筒に水を入れ替えて、またガソリンの爆音を立てさせた。
*
林が林に続いた。高原が高原に続いた。
露領時代のままの駅逓が或る林中に幽かに薄紫の炊煙を立てているのも見た。その駅逓は丸太組で、極めて簡朴な、そうして異国風の雅味を持った建築であった。それに赤みがちの錆色にも古びがつき、硝子窓の切り方などもかなりに凝って、尖った屋根飾りや軒飾りなども単純で、いかにもまた雪の深い樺太の情趣を忍ばせるものであった。
蹄鉄、長柄の鎌、フオク、斧、鉈の類がその土間には放り出されてあった。
日の光が、黒い椴松の梢々の間でちらちらした。
薄ら寒い雲の流れでもあった。
と、その上手の、まだ木の香のなまなましいバラックの、戸は引いて、窓も閉めたのが、その中では何か盛んに喧騒していた。たしかに酒に酔うた五、六の人間の放歌高吟がきこえた。
そのバラックの前に黒塗りの立派な函自動車が待たしてあった。
私たちの甲虫はその前をまた爆音高く通過した。
*
私たちはまた、こうした原生林の中の幾つかの駅逓や部落を通り過ぎた。部落といっても全くの寒村で、急勾配の廂の長い丸太式の家が二戸か三戸か、ほんの飛び飛びに並んでいるきりであった。