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フレップ・トリップ

フレップ・トリップ

北原 白秋

「女性」プラトン社、1925(大正14)年12月号~1927(昭和2)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,698 字 · 293 页

青空文庫

外にはまだ雨の音がしてた。

「や、パンだな、焼いてるな。」

というと、イワンがふっと私の方を向いた。

指でちょいと、ペチカの方を、そして私が茶目ると、赤いおやじさんがぽんぽんと片手でその首根っこを叩いた。

「あっはっはっ。」

医専のMとTとがカメラを胸へ、そっと俯向いて、前へ出ると、

「ジャメジャメ。」

慌てたパン屋さん、大きく両手を振って、すぽりっとカーテンを後向きにもぐりにかかる。それをどかどかと追って、みんなが這入って見て、また見まわした。其処が食堂、いや、寝室らしくもある。木造りのほんの型ばかりのベッドが、奥への通路の赤い更紗のカーテンの傍にたった一つ、ベッドには白い藁蒲団に白い枕に白いカバー。

「簡素なものだな。」

だが向って右手の硝子窓には黄の赤い蘭科の花の鉢が一つ、大きな素木のテエブルの上に載せてあって、その怪しげな生物が、またこの大陸風のこの雨の日の外光を思いきり吸いふくれていた。

燃えあがる焼点。

「ツイトーフ。カムチャッカ蘭です。」

と、技手が私に答えた。

大きなテエブルの両側にはベンチ風の薄汚れた木の腰掛が一脚、二脚、クリロフの一家はここで、互に向い合せて、さて、スープの鍋底を大きな杓子でひっ掻きまわし、パンをもぎり、赤酒を、また牛の髄骨をしゃぶるらしい。