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フレップ・トリップ

フレップ・トリップ

北原 白秋

「女性」プラトン社、1925(大正14)年12月号~1927(昭和2)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,698 字 · 293 页

青空文庫

といって赤化の北へは帰れない彼らである。周囲の日本人に対する複雑した異種族の感情を抑えて、ともかく生きてゆかねばどうにもなるまい。それともまたヌーボーの露助のことだ。私が考えるほどのものでもないかも知れぬ。案外に野呂間で、今日を今日として悠々と楽しむ心も一面には持っていそうにも思われる。だが、あの子供らしい「ジャメジャメ」にも何かしらの暗い哀調は籠っていた。

通りへ出ると角に呉服屋兼小間物店があった。私は麻のハンカチーフを買った。連れの庄亮はゴム足袋にゲエトルを買って、穿くと、ぐるぐるとその片足に巻き出した。

店には火鉢が二つ、火がカンカンとおこしてあった。樺太は八月でも雨のふる日はうそ寒い。

「あのクリロフという露西亜人の家がありますね。」

「へい、ございます。」と痩せぎすの主人が答えた。

「あれはどうにかやっていますか。」

「ええ、パンを焼いていますですが、相当にやってゆけるようでございますよ。」

どうしたものか、私は主人のうしろに積み重ねた紺足袋の真鍮の小ハゼが目に沁んで仕方がなかった。

駅へ行って見ると、豊原行の臨時列車はまだ仕立中であった。

朝早く大泊から東海岸の栄浜まで直行して、またこの小沼まで引き返した観光団の一、二等客は、その合間に雨中を農事試験場の参観に出かけたということであった。