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フレップ・トリップ

フレップ・トリップ

北原 白秋

「女性」プラトン社、1925(大正14)年12月号~1927(昭和2)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,698 字 · 293 页

青空文庫

そこで、私は庄亮を見た。どうにも笑いがこみあげる。

それは小樽を出ての海上の夜の食堂のことであった。いい気持ちに陶酔したC老人は、突如として私に年一万円の補助を申し出た。

「北原さん、洋行なすっちゃどうです。及ばずながらわたしが三万円御用立てしましょう。年に一万円ずつ、三年ですぞ。」

私は困って笑っていた。

「占めた。」と庄亮、

「こりゃうまい、白秋君、証文をひとつ書いてもらっとこじゃないか。」

「ようし。」とC老人、早速に半紙に書きなぐった。

「A博士、ひとつ御証明を、そのぉ願います。」

A博士は謹厳であった。容易に筆を執ろうとはしなかった。そこで、

「Mさん、どうです。」

「あてか、さよか、よろしい。」と、自称美術家のパトロン、M老人、つるりと唾に筆の尖、薄墨で蚯蚓流。

「占め占め。」と、庄亮、蟇口にねじ込んで、懐中に固くしまうと、「さあ、飲むぞ、飲むぞ。」

「飲もう。大いに飲もう。」とC老、ふらふらと立ち上ったが、また私を見ると、

「三万円、一年に一万円。」

小鼻に一本、直指の型だ。

だが、その翌朝になると、何か会っても鼻じろんだ、それがまた、酒気に乗って来ると、そら、また、「一万円。