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フレップ・トリップ
フレップ・トリップ
北原 白秋
「女性」プラトン社、1925(大正14)年12月号~1927(昭和2)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,698 字 · 293 页
ここではベェリヴェヤワ一家の事を主題とするからである。ただ二隻のランチに一隻ずつ曳かれた私たちの大団平船が、沿岸に蘆荻が繁って、遥かの川上に中部樺太の山脈が仰がれ、白樺、ポプラ、椴松、蝦夷松の林を左右に眺めて、一時間も幌内の大河を溯航した壮快さを伝えて置きたい。全く内地にもすくない水郷だという感じが私を喜ばせた。海驢のように黒くて大きな流木も浮んで見えた。ベェリヴェヤワのお母さん七面鳥は私の乗込んだ団平船の高い艫の方に大きく膨れてかがんでいたが、いかにも楽天家の本相をあらわしていた。そうして事毎に「神戸神戸。」で話は持ちきっていた。何でも明日にでも牝牛を売るような口ぶりにはみんなも驚いて笑い出した。だがとにかくすっかり中心人物になり了せた。
ツンドラ地帯とは蘚苔類の層積から成る幌内川の沿岸は広袤数十里に亘る地帯の謂である。その地帯には俗に樺太葡萄と称する紅い果のフレップと紫の果のトリップとが一円に野生していて、自由に人の来て摘むに任してある。極楽園である。フレップもトリップも躑躅によく似た葉の細い小さい灌木である。舟が着いて上ると私たちは皆二時間ほどをその灌木林で悠遊した。