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フレップ・トリップ

フレップ・トリップ

北原 白秋

「女性」プラトン社、1925(大正14)年12月号~1927(昭和2)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,698 字 · 293 页

青空文庫

私は山荘の住人で、平生竹や草や昆虫ばかりの中に立ち交っているので、身のまわりなぞは清潔にはしているが、少くとも野趣そのままにちがいなかった。それがアルパカの黒背広に黒の小さな鞄を肩から引き掛けて、「さようなら、行ってまいります。」だから、それは瀟洒な、(色が黒くて肥ってはいるが)さぞ好紳士に見えたことだろう。

ましてや、誰よりも私のこの長旅行を喜んでくだすったのは私の両親であった。その前夜には、二人の弟もその妻たちも妹もそろって大森の両親のもとに集った。そうして一同が私のために盛んに杯をあげてくれた。友人としては私のいわゆる隣国の王と称する(それは童話国の王だからだ。)「赤い鳥」の鈴木の三重吉が、それこそ上機嫌でぴちぴちして、「ええのう、ええのう。」で意気が昂ったすえには、それはまことに枯淡閑寂な鰌すくいを踊りぬいて、赤い農民美術の木の盆と共に危くひっくり返りそうになったほどだ。それから私は両親の寝床の間にもぐりこんで、長い白髯を引っ張るやら、皺くちゃの乳房にかじりつくやら、ひとしきり困らしていたようだが、いつの間にかぐっすりと眠りこけてしまったらしいのだ。