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フレップ・トリップ

フレップ・トリップ

北原 白秋

「女性」プラトン社、1925(大正14)年12月号~1927(昭和2)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,698 字 · 293 页

青空文庫

これでは夏の江の島へ行ったようで、北の小樽とは思えない。

やっと食膳を片づけさして、またぽつねんと一人となると、やっぱり札幌の牧場にでも行って種馬の見物でもした方が、よっぽど有意義だったろうと悔しくなる。雄大な自然の中で、奔放な種馬が跳躍し交尾し歓喜する壮観は、それは稀に見るすばらしさだろうとも思える。それに光り輝く光線、風、草いきれ。

それに私は幽霊の二乗を背負って、折角の真夏の旅の一日を引っ籠っているのだ。

たまたま下の洗面所に顔でも洗いにゆくと、目に入るものは、赤錆いろの鉄分の強い坪ばかりの池の水と、萎えきって生色のない八つ手の一、二本である。

*

二時頃になって、庄亮が、小樽新聞社のM氏と連れ立って帰って来た。二人とも相当に酔っている。氏は三木羅風君の義父さんだと紹介される。そこで羅風君の話が出る。ついこの出発の前夜に私たちが逢ったことも私は伝えた。M氏は庄亮のお父さんの永年の乾分だと自身をしきりに私に知らしていた。酔眼朦朧としていられた。

「何処で飲んだのだい。」と私は庄亮をふり返った。

「いや、つい近所の洋食屋だがね。」といっているうちに、女中はトマトにマイナスソースをかけたのと、蟹のコキールとを二皿持って来た。