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フレップ・トリップ
フレップ・トリップ
北原 白秋
「女性」プラトン社、1925(大正14)年12月号~1927(昭和2)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,698 字 · 293 页
それに幾分は曇天でもあった。ともすると明日あたりは雨になるかも知れないとさえ私にも思えて来た。
「見たまえ、あんなに日が当っても、波の面一つ光らないんだからね。」
私の友はこういって、甲板の籐椅子から延びあがって見て、またのそりと腰を下ろした。ノートにしきりに歌を書きつけている。
「そうだな、何だか急に昼が短かくなったようだ。」
私も隣の籐椅子に凭りかかって、しげしげと何か白い鳥の飛ぶのを眺めていた。
「お腹も空いたようだな。君、何か食べないかい。」
「それより、お湯にはいりたいね。」
「そうだな、夕飯でまた一杯やるとして、その前にはいっとくかな。それにしても紅茶でも取ろうや。」
「よく、君はいけるね。よっぽど健康な胃ぶくろだと見える。」
「健康だとも。いいかい。呼鈴を押すぜ。」
私たちはまた自分たちの談話室にはいり込んでしまった。
と例の九州男のY君が、一人の実直そうな白面の若者を引っ張って来た。
「やッ、先生、この仁ですたい。松浦王の息子さんですもんな。ほんによかけん。」
「ほう。」と私はその方を見た。「さあどうぞ。」とクッション附きの華奢な椅子の一つを指した。