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フレップ・トリップ
フレップ・トリップ
北原 白秋
「女性」プラトン社、1925(大正14)年12月号~1927(昭和2)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,698 字 · 293 页
好きで酔うと贅六句調で、変な唄ばかり歌う。A博士は電気学者で京都の大学教授である。髪をキッと分けて、角ばった頤の、眼鏡の奥に謹直らしい眼を光らしている。絶対に禁酒家である。もとはかなりいけたそうであるが、今は何か病後でもあるという。一、二度はその夫人も並んで見えたが、すっかりこの頃は影をひそめてしまった。同行の令息とでも一緒かも知れぬ。令息ははっきりと覚えぬが三高の学生らしい。建築家のK氏は我親友の木下杢太郎の姉さんの夫にあたる人で、彼を準養子にされている。胡麻塩頭の、金縁眼鏡をかけた、顔の白い、一寸学閥風の老紳士である。もっともらしい態度でやや中脊だ。少しは飲めそうだ。津軽海峡あたりからそろそろよい機嫌になって来られた。これは内密だが、一寸長唄に懸腕直筆で富士山の画がお得意だ。D中学校長は温厚そのものといっていい。円い眼の笑えば眼尻が細くなる。棗面である。酒にはすぐに赤くなる方である。団員名簿に会社員と記されたH君夫妻は小倉から出て来た、土地では相当の資産家らしい。夫君はまだ若いが代議士の候補にも一、二度は立ったとも誰かの話であった。船員を除いて、この人ばかりはいつも黒の背広を着て来る。