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フレップ・トリップ
フレップ・トリップ
北原 白秋
「女性」プラトン社、1925(大正14)年12月号~1927(昭和2)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,698 字 · 293 页
「そおれ、あぶないぞ。放せ、放せ。」
「やいやい、そのロップを投げろ。」
「それっ。ちぇっ。駄目だ駄目だ。」
「莫迦、こっちへ寄越せ、なあんだ。あっはっは。」
それも、やっとのことで、どうにかブリッジに繋ぎ留めると、第三班からどかどかと気早の連中が降り出す。「あぶない、あぶない。」である。
と、ランチにまたロップを放る。ランチはまた波飛沫を上げ上げ、半弧をえがいて、ぽつぽつぽつと引き返してゆく。
「万歳。」と艦上から誰やらが麦稈帽を振る。艀からは、タオルをかぶるもの、マントの頭巾に眼ばかりのもの、蝙蝠傘、ハンチング、誰、誰、誰、誰、いつも見知っているそれらが一斉に「万歳。」である。弥次る、はしゃぐ、手を振る、顔で笑う。
すばらしい波と雨と霧。艀は見えつ隠れつ、思わぬところに帽子の幾つかを見せてまた波の向うにずり込んでしまう。そうして割合いに早く小さくなってゆく。その間にも浜ではもう一つの団平が騒いでいるのだ。
「これは大変だな。命がけだな。」と笑っていると、つい傍にH夫人が小豆色のコートをつけて、タオルで頬かぶりの、鼠いろの眼鏡をかけて、ちらと愛嬌笑いをした。