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ごべんのつばき

五瓣の椿

山本 周五郎

「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页

青空文庫

娘のように赤く、ふっくらと湿っている唇が歪み、はっきりとした紛れのない双眸に、貪婪な、ぎらぎらするような膏ぎった色がうかんだ。――舌で押した頬の瘤を撫でている右手の二本の指は、彼の意志とは関係がないように、押しつけ、撫であげ、撫でおろし、揉みほぐすという動作を、巧みなしつっこさで続けていた。

「お、――」彼は耳を傾けた、「半鐘じゃないか、昼火事だな」

数えると一つ半であった。遠いな、と呟きながら、得石は窓を閉めた。風もないし、これならすぐに消えるだろう、つまらねえ、などと独り言を云い云い、箪笥をあけて衣類を出した。すっかり出し終って、着替えをしようとしていると、手荒く障子をあけておくにがはいって来た。角ばった顔に、毒どくしい侮蔑と嫌悪の表情をうかべ、とびだしたようにみえるその眼は、嫉妬と嘲笑とで光っていた。

「またあの手を使ったんだね」とおくには唇の隅だけ動かして云った、「ふん、きたならしい、またあの手を使ったんだろう」

「きさまなどになにがわかる、おれのすることに口をだすな」

「薬礼だよ」おくには紙に包んだ物を、良人の足もとへ投げだした、「白ッ首やけころにも劣ったけがらわしいまねをして、大の男がよくもこんなお金が取れるもんだ」