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ごべんのつばき
五瓣の椿
山本 周五郎
「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页
「わかりました」おしのはまた頷いた、「できるだけ早くそうするように致します」
医者が帰るとすぐに、おしのは亀戸の寮へ使いをやった。母に来てもらいたい、ということづてを命じ、駕籠でゆかせたのであるが、おたみというその若い女中は、帰って来ると、喜兵衛に向かって、「おかみさんは躯のぐあいが悪くて来られないそうです」という返辞を伝えた。おしのがちょっと座を外していたあいだのことで、珍らしく喜兵衛は怒った。
「どうして迎えなどやったんだ」喜兵衛は尖った声で云った、「迎えをやっても来ないことはわかっているじゃないか」
「ごめんなさい」おしのは眼で詫びながら答えた、「どうしても相談しなければならないことがあるんです、あたしちょっといって来てもいいでしょうか」
「相談とはどういうことだ」
おしのは勇をふるうという気持で、医者の云ったことを父に告げた。喜兵衛は終るまで聞かずに、激しくおしのを遮った。
「私は寮などへゆかない、そんなことをしなくとも大丈夫だ」
「だってお父つぁん」
「いや、大丈夫だと云ったら大丈夫だ」と喜兵衛は云った、「この病気のことなら医者よりも私のほうがよくわかる、私は若いころから躯のことには気をつけているし、この病気にかかってからは、病気に波のあることや、その波がしらを逃げるこつも覚えた、いや本当だ」