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ごべんのつばき
五瓣の椿
山本 周五郎
「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页
彼女は「かれら」と話すだけの時間を費やしただけのようであった。
「ああ戻ってくれたか」おみのを見ると得石は片手で胸を撫でた、「ながいものだから、また置いてきぼりをくったかと思いましたよ」
「あんなことを」おみのは火鉢の脇に坐り、掛けてある燗鍋に触ってみながら、したたるように嬌かしいながし眼をくれた、「――今夜は泊るつもりでって、手紙に書いてあげたでしょう」
「こんどこそ、本気にしますよ」
「ではいままでは、本気じゃなかったんですか」
おみのは酒を徳利に移し、燗鍋へ新らしく酒を注ぎ足してから、彼に酌をした。
「冗談じゃない、こっちは初めから本気だったのに、いつも肝心なところでおみのさんに逃げられたんですよ」そこで彼は思いだしたように、慌ててまわりを眺めまわした、「今日は約束した物もちゃんと持って来たし、――へんだな、さっきここへ」
「手提ですか」とおみのが云った、「手提ならここにありますよ」
火鉢の脇から手提を取って、おみのは彼の手へ渡した。彼はいそいで袋をあけようとしたが、紐がもつれてなかなかあかなかった。
「なにをお出しになるの」
「このまえの約束した物ですよ」