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ごべんのつばき
五瓣の椿
山本 周五郎
「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页
「紅い一枚の椿の花片」とまた彼は呟いた、「いったいなんの意味だ、そんなに若く、縹緻も人一倍いいという娘が、どういうわけで二人の男を手に掛けたんだ、――椿の花片はなんの意味だ」
駕籠が停り「着きました」という声がした。草履を揃えたのは、迎えに来た上総屋の七造であった。街はもう黄昏が濃く、眼の前にある料理茶屋の門口にも「かね本」という掛け行燈に火がいれてあった。
「女はいるだろうな」
「大丈夫です」と七造が云った、「どうぞ」
「駕籠屋は待たせておけ」
門口をはいると土間で、それが向うまで続いており、右側に部屋が並んでいた。田舎ふうの造りだろう、七造は土間をずっといって、端から一つ手前の障子をあけた。――そこは四帖半の小部屋で、行燈が明るく、手焙りの側に中年増の女が一人坐ってい、千之助を見るとうしろへさがって手を突いた。千之助はあがって、刀を右に置きながら坐った。
「辞儀には及ばない、楽にしろ」と千之助は云った、「おまえ門前仲町の『岡田』の女中だそうだな」
「はい、『岡田』ではつるといってますが、本名ははな、年は二十六でございます」
「手短かに話してくれ」
「このうちに妹が奉公しているもんですから、今日はあたしの休み番なもので、ちょっと用もあって遊びに来たんです、妹はここではお初と云ってますけれど、本名は」