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ごべんのつばき
五瓣の椿
山本 周五郎
「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页
佐吉を桝屋から抜いたのはおしのである。毎月一両という手当で縛り、いまでは根岸に住んでいて、十日に一度ずつおしのを「みまい」といって訪ねて来る。彼はおしのにとってなくてはならない人間であった。佐吉は母の情事をとりもって来た男で、母の相手を捜すにも、また必要なことをしらべるにも、彼の過去や性質はうってつけであったし、また彼自身、おしのに支払わなければならないものを持っていた。
風邪で寝ているあいだ、おしのは「丸梅」の源次郎のことを思った。
――なんという悪い人だろう。
十五にしかならない、田舎の小娘に手を出し、子供を二人も産ませておいて放り出す。しかも子供の一人を「自分の子ではない」と難くせをつけた。おそらく、暇を出されたばあやというのをだきこんだのだろう、証人まである、と云うに至っては下の下だ。
「そんなことができるものだろうか」寝床の中でおしのは自分に問いかけた、「いくら悪いといったって、人間にそんな非道なことができるものだろうか」
おつるの一方口だけ信じては、誤りではないだろうか。おしのは気をしずめるようにそう反問した。けれどもすぐに、「否」と、枕の上で首を振った。