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ごべんのつばき
五瓣の椿
山本 周五郎
「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页
はいって来た佐吉は怯えていた。少なくともおしのには、彼が怯えていて、それをけんめいに隠そうとしているのが感じられた。
「聞かれると困るんだが」と佐吉は坐るとすぐに云った、「おまさちゃんを使いにでもやってもらえませんか」
「あの子は大丈夫よ、わかってるじゃないの」とおしのは答えた、「それにあの子は立ち聞きなんかしやあしないわ」
「じゃあ云っちまいましょう」佐吉はもう一と膝前へ出て声をひそめた、「八丁堀の青木という与力を知ってますか」
おしのは頷いた。
「あの男が勘づいたようですぜ」
「勘づいたって、なにを」
「墓を掘り返して骨をしらべたそうです」
「なんのことよ、それ」
おまさが茶と菓子を持って来、そのまま去った。佐吉は茶を啜ったが慌てているために舌をやいて、顔をしかめた。
「正月の火事に疑いを持ったらしい」佐吉は唇を舐めて云った、「旦那は死にかかってる病人だし、おかみさんが潰れるほど酔っていたことは、寮のおまさという女中が知っていた、けれどもおまえさんはそうじゃあなかった、おかみさんの相手をしたにしても、火事になって動けないほど酔っている筈はない、ことによるとおまえさんは殺されたうえ、火をつけて焼かれたんじゃあねえか、――こう考えたそうです」