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ごべんのつばき

五瓣の椿

山本 周五郎

「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页

青空文庫

そうだろうか、すっかり焼けて骨だけになったのだから、なにも証拠になるような物が出て来る筈はない。慥かに、なにも出て来る筈はない。しかし役人には役人の眼がある、どんなに巧みに仕組まれた罪も、しらべるようにしてしらべれば必ず発見されるというではないか。

「あの人は現にあたしを見ている」とおしのは呟いた、「もし疑わしいことをみつけたら、むさし屋のほうをしらべるだろう」

店のほうは大丈夫だ。養子にはいった当主の伊四郎はもちろん、番頭の嘉助さえなにも知らない。ただ徳次郎だけは、あたしの生きていることを知っている。もし徳次郎がしらべられるとすれば、――こう思ってきて、おしのは身ぶるいをした。あの人が吟味にかけられたとき、飽くまで知らないと云い切る気力はないだろう。たとえその気力があったにしても、あの人をそんな辛いめにあわせるわけにはいかない。もうきりをつけるときだ、とおしのは心をきめた。

おしのは手文庫を出して、机の前に坐った。金はまだ二百五十両とちょっと残っていた。おしのはそれを二つに分け、二つを紙に包んだ、一つに「おまさどの」と書き、他の包みといっしょに机の抽出へ入れ、残った金を紙入れへ入れた。