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ごべんのつばき
五瓣の椿
山本 周五郎
「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页
「だめよ」おしのはあまく囁いた、「灯を消してちょうだい」
「恥ずかしい柄かよ」
「障子に影がうつるじゃあないの」おしのは背中で佐吉にあまえた、「土堤から見られたらどうするの、ねえ、灯を消して」
佐吉は手を放し、おしのが帯を解きかかるのを見て、行燈を吹き消した。
そのとき土堤の上を、二人伴れの男が歩いていて、「ようよう」と声をかけた。酔っているのだろう、互いに支えあいながら、大きな声で、「ようようやけます」とどなった。屋形船の灯が消えるところを見たらしい、絡みあってひょろひょろと泳ぎ、片方の男が、「みせつけるない、ちくしょう」と喚き、片方が、「石をぶっつけるぞ、野郎」とどなった。
「放してくれ」とその男はよくまわらない舌で云った、「石を捜して、ぶっつけてやるんだ」
「よしきた」伴れの男が云った、「おれも手伝ってやらあ、おらあ世の中のためになることなら、命も要らねえ、ほんとだぜ、世の中のためになることならなんだってやるんだから」
「いいことを云うぜ、おめえは」まえの男は相手の肩に凭れかかった、「男はその意気だ、じゃあひとつ、その意気で善公のところへ押しかけるか」