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ごべんのつばき
五瓣の椿
山本 周五郎
「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页
あなただってたのしんだことはたのしんだ、そうでしょ、それだのにあとで苦しむのは女だけで、あなたは爪の先も痛みはしない、おつるさんはことによると、一生苦しまなければならないかもしれないのに、あなたは妻子とたのしくくらしているうえに、あたしのような者ともこうして隠れあそびをしていられる、――男と女はもともとそういうようにできているのかもしれません、きっとそうなんでしょうよ、けれども、それであなたはなんでもなくって、たまにはああ悪かったぐらい思うこともあるんですか」
「今夜は御機嫌ななめらしいな」源次郎は苦笑しながら、おしのに酌をして云った、「なにかいやなことでもあったのか」
「今夜限りでお別れする、っていうことが云いたかったんです」
源次郎は訝しそうな眼をした、「――およねさん酔ったね」
「酔うのはこれからよ」と云っておしのは汁椀の蓋を取った、「さあ注いで下さいな」
「うれしいね、その調子だ」彼は酌をしてからおしのを見た、「だが、――これっきりで別れるというのは、まさか本気じゃあないだろうね」
「本気よ」とおしのは云った、「自分では本気のつもりよ、いろいろ考えてみると、このへんが別れどきだと思ったの」