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ごべんのつばき
五瓣の椿
山本 周五郎
「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页
「こんどのお松は違うんだっていったら」
「それもきまり文句だ」千之助は背を向けたままで、筆を持った手を振った、「さあ出ていってくれ、おれはこれを片づけなくちゃならないんだ」
岡田朔太郎は溜息をつき、首を振りながら出ていったが、閉めた障子をすぐにあけて戻り、「忘れていたよ」と云って、一通のふくらんだ手紙をさし出した。
「おれの書状箱にこれが紛れこんでいたんだ」と岡田は云った、「おしのという女の名まえだが、呼出しじゃあないのか」
「おしの」千之助は受取って署名を見た、「覚えのない名だな、なんだろう」
「おれのお松と同じ口じゃあないのか」と云って岡田はあとじさりをした、「そんな顔をするなよ、冗談じゃないか」
そしてこんどはいそぎ足に出ていった。
千之助は暫く「おしの」という署名をみつめていたが、やがて封を切って、厚くふくらんだその手紙を披いた。厚さ一寸ほどもある巻紙の上に、細長く折った一枚の紙があり、彼はまずそれを読んだ。
――わたくしは日本橋本石町三丁目の薬種問屋、むさし屋の娘しのでございます。
それにはこういう書きだしで、人を殺した罪で自首して出たいが、いつぞや「かね本」