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ごべんのつばき

五瓣の椿

山本 周五郎

「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页

青空文庫

それ以来ずっと別居生活が続いてい、店へは寄りつきもしなかった。

「旦那は戸板のまま奥の間へ運ばれ、若い衆たちはすぐに帰ってゆきました」とおまさは云った、「おしのさんは奥の間で旦那の側に付きっきり、あたしが御用はないかと訊きにいっても、ただ静かにしていておくれ、お父つぁんの病気が重いから、と仰しゃるばかりでした」

そのうちに香の匂いがして来、あんまり強く匂うので、どうかしたかと思ってみにゆくと、病人が躯が臭いと云うので、香をいているのだから心配には及ばない、とおしのは答えた。やがて夕方になると、おしのは自分で勝手へ来て、ゆきひらで米をとぎ、「火鉢で粥を煮るのだ」と告げ、また、自分の夕食はなんでもよい、と云って奥へ去った。――それからおまさは天神橋の前まで買物にゆき、魚や野菜を買って来て、飯を炊いたり煮物をしたりしていた。このあいだに、七日間も留守だった主婦のおそのが帰っていたらしい、おまさはまったく知らなかったが、娘のおしのが来て、母が帰っているから酒の支度をするように、と命じた。

「ちょうどお酒がきれていましたので」とおまさは続けた、「酒屋へ注文にゆくと云いましたら、それではついでに酒の肴もと仰しゃいました、おまえおっ母さんの好みを知っているだろうから、いいようにしておくれと仰しゃるので、あたしは酒屋と仕出し