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ごべんのつばき
五瓣の椿
山本 周五郎
「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页
出入りの駕籠屋が釣台を持って来、嘉助と徳次郎とが喜兵衛を抱いてそれに乗せた。重ね夜具の中に寝た喜兵衛は、すぐに油単を掛けさせ、「誰もついて来るな」と念を押した。人が付いて来ると眼につく、近所へは寮のほうへ保養、にいったと云うがいい、店のことを頼むぞ、と嘉助に繰返し云った。――おしのは草履を結いつけてはき、煎薬を詰めた壜と、綿や紙を入れた包みを持って、釣台の脇に付いて本石町をでかけた。
「駕籠にお乗り」と喜兵衛が三度ばかり云った、「歩いては疲れる、駕籠にお乗り」
疲れたら乗ります、あたしのことは心配しないで下さい、とおしのは答えた。舁き手の若い者は四人、二人ずつ交代であった。病人は軽いけれども、揺れないようにかげんをしてゆくため、却って骨が折れるようであった。おしのは時をおいて父に呼びかけ、苦しくはないか、少し休もうか、などと訊いたが、喜兵衛は両国橋を渡るまで、「大丈夫だ」と答えていた。橋を渡って小泉町から亀沢町にかかったとき、喜兵衛がおしのの名を呼んだ。
「ちょっとでいい、休んでくれ」
おしのは釣台をおろさせた。
「苦しいの」とおしのは訊いた、「喉をしめしましょうか」