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ごべんのつばき
五瓣の椿
山本 周五郎
「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页
じゃなかった、あんたの云うとおり、あの人はなんの道楽も知らず、朝から晩まで雇人といっしょになって働いたわ、まじめで、正直で、むさし屋を先代より繁昌させたし、油屋の店も出すようになったわ、それはそのとおりだけれど、良人としては味もそっけもない、退屈でつまらない人だった、女の気持もわからないし、これっぽっちも面白味のない人だったわ」
「もうちょっと云わせて」とおそのは頭をぐらぐらさせながら続けた、「――女というものはね、おしのちゃん、自分のためにはなにもかも捨てて、夢中になって可愛がってくれる人が欲しいものよ、あたしのためならむさし屋の店も、財産もくそもないというほどうちこんでくれたら、あたしだってもう少しはあの人に愛情を持てたと思う」
「そんなことあたりまえじゃないわ」とおしのが遮って云った、「そんな愛情なんてあたりまえじゃないし、おっ母さんのごまかしだわ」
「あたしがなにをごまかすの」
「おっ母さんは遊びやたのしみが好きなだけよ、芝居へ入り浸ったり、芸事に夢中になったりするだけじゃなかった、茶屋へ役者や芸人を呼んで、ちやほやされながら、飲んだり喰べたりするのが好きなんじゃないの、愛情がどうのこうのなんてごまかしよ」