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ごべんのつばき
五瓣の椿
山本 周五郎
「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页
三日にいちどくらいの割で、中村座の楽屋へ寄ってみたが、おりうからの「知らせ」はなく、ふところは苦しくなる一方であった。まるでみんなが牒し合せでもしたように、お由もあのまま寄りつかない。残した道具や衣類にみれんはないとしても、あいそづかしの一と言くらい云いに来る筈である。――そうすれば小遣いのちっとはねだれるんだ、と蝶太夫は心の奥で呟いた。万一にも、おりうがこれっきりよりつかないとすれば、お由とはっきり別れてしまうわけにはいかない。お由は世帯持ちもいいし、困ったときの金のくめんも上手だ。
「お由と手切れになるのはまずいな、うん」と蝶太夫は思案し直すように呟いた、「どっちにしろいまはまずい、いちおう紐を付けておくほうがいいだろう」
彼は柳橋へゆく気になった。
柳橋にはお由の姐さんに当るお政がいる。身を寄せるとすればまずお政のところであろう。そう思い立ったとき、中村座の狂言がつき替って、常磐津は出ないことになり、彼のからだもあくことになった。それは十一月十日のことで、蝶太夫はすっかり慌てた。
「なにもかも見当が外れやあがる、おかしいな」彼は不安そうに呟いた、「みんながおれを覘って、おれの物を一枚ずつ剥いでゆくようじゃないか」