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ごべんのつばき
五瓣の椿
山本 周五郎
「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页
蝶太夫は飲みながら続けた、「あのごしんぞをあんな浮気者にしたのも、御亭主の罪でしょう、どっちもどっち、結局お互いの罪でお互いが罰に当った、あの二人が夫婦になったのが、そもそも因果というもんでしょうさ」
「それで、――」とおりうが云った、「お師匠さんには罰は当らないのね」
「私に罰が」と彼はおりうを見た、「どうして私に罰が当るんです」
「いいわよ、めしあがれ」おりうは酌をしてやった、「あとをつけましょうね」
そしておりうが立ちあがったとき、廊下の向うから暴あらしい足音が近づいて来、襖の外で停ると、「こちらに岸沢の師匠はいますか」と声をかけた。蝶太夫はぎょっとした。紛れもなくむささびの六の声で、彼は慌てておりうに手を振った。しかしそれより早く、おりうがその声に答えた。
「はい、お師匠さんはいますが、どなたですか」
「六助てえ者です」と向うは云った、「失礼してへえります、御免下さい」
襖をあけて、二人の男がはいって来た。一人は六助、一人は木綿縞の布子に角帯をしめ、筒袖の半纒をひっかけている。年は三十二、三だろうが、顔色も悪く、眼も頬もおちくぼんでいるし、月代が伸びているためかずっと老けてみえた。