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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
驚いて叫び声を立てるだろう。か弱い腕で抵抗を試みるだろう。恩田は残忍な期待に燃えて、文代さんに掴みかかって行ったのだが、相手は声を立てるどころか、身動きさえもしないではないか。おや、気絶しているのかしら。だが、それにしても……
恩田は両手を伸ばして、文代さんの肩を、ギュッと抱きしめたが、すると、何に驚いたのか、彼は「ギャッ」というような怒りの叫び声を立てたかと思うと、いきなり文代さんのからだを、軽々と車のそとに掴み出し、さも腹立たしげに地べたに投げつけて、その上を、めちゃくちゃに踏みつけるのであった。
それは文代さんではなかったのだ。いや生きた女ではなかったのだ。文代さんの衣裳をつけた、一個の冷たい蝋人形にすぎなかったのだ。
「畜生め、畜生め!」
恩田がやけになって、その文代さんらしいものを踏みつけたのも無理ではない。
ああ、そうだったのか。さいぜん明智の事務所へ運ばれた棺桶ようの木箱の中には、神谷が恐れたような死体ではなくて、このマネキン人形がはいっていたのだ。手品には手品をもって酬いると言った明智は、あらかじめこのことあるを察して、昼のうちにちゃんとマネキンを注文しておいたのに違いない。