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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
そして、その思い切ったトリックが、まんまと効を奏したのだ。人形が自動車に乗って外出するなんて、いかな悪魔も思いも及ばないことであった。
「フフフフフ、ご苦労さまだったね」
恩田のうしろに、黒い影が立って、突然声をかけた。
さすがの怪物も、この不意うちには、ギョッとしたらしく、身構えをして振り返った。
「貴様、運転手だな」
「そうだよ。君をここまでお連れ申した運転手だよ」
黒い影は腕組みをして、落ちつき払っている。
「お前、おれが怖くはないのか」
恩田が無気味に低い声で、押しつけるように唸った。
「フフフフフ、怖いのはお前の方だろうぜ。おい、同僚、一つおれの顔をよく見てくれ。おれを誰だと思っているのだね」
運転手が、眼深にかぶっていたソフトを取って、自動車の窓のところへ、ヒョイと顔を出してみせた。
恩田がゾッと身震いしたのも無理ではなかった。
そこには、もう一人の恩田がいたのだ。黒く骨ばった顔、もじゃもじゃした頭髪、まっ赤な唇、その唇のあいだから覗いている野獣の牙のような白歯、皺くちゃになった黒の背広、何から何までソックリそのままの人間豹が、もう一匹、闇夜の森の中に出現したのだ。