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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
実に奇妙なことであったが、しばらくすると、彼は一人で女中部屋を出て、二人の寝室へあがって行った。
「あら、お帰りなさい」
階段の上で、パッタリと文代さんに出会った。彼女は主人の帰宅らしい様子なので、とじこもっていた寝室をあけて、お迎えのために今下へ降りようとしていたところであった。
明智は「ああ」と答えたまま、先に立って寝室にはいって行った。
「小林も誰もいませんでして?」
文代さんはけげん顔に尋ねる。
「いや、小林には少し用事を言いつけたんだよ。いいからここへ来たまえ」
変装用の入歯のために、明智の声はまるで別人のように聞こえた。
「いやですわ、そんな恐ろしい姿で。早く顔をお洗いなさるといいわ」
「いや、それどころじゃない。ともかく部屋へはいりたまえ。君に話があるんだ」
そして、二人は寝室へはいった。寝室と言っても、そこは文代さんの居間と兼用になっているので、部屋をカーテンで仕切って、一方にベッド、一方にはデスク、テーブル、化粧鏡、数脚の椅子などが整然と列んでいた。それをデスクの上の卓上燈が、薄ぼんやりと照らし出している。
「いや、そのままでいい。暗い方がいいんだ」