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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
人間のようでもあった。またそうでないようにも思われた。影法師かもしれなかった。玄関の電燈の下を誰かが通って、その影が映ったのではないかと、大急ぎで曲がり角からのぞいてみたが、人のけはいはない。何か大きなコウモリのようなものが、廊下の床をスレスレに飛び去った感じであった。
恩田は慌てないではいられなかった。怪談を怖がったわけではない。身辺の危険を感じたのだ。その影法師が凶事の前兆のような気がしたのだ。もうこのうちのまわりは警官たちによって取り囲まれているのかもしれない。そいつらの影が廊下まで感じられたのかもしれない。
彼は獲物に忍びよる豹の静かさで、玄関の土間に飛びおりると、入口のドアを用心深く細目にひらいて、青く光る眼で、そとの闇を入念に見まわした。だが、ホッとしたことには、植込みにも、門前の道路にも、なんの怪しいけはいも見えぬ。そこで、彼は合図の口笛を、二た声低く吹き鳴らした。
間もなく門の方から、二つの黒い人影が、ノソノソとはいってきた。運送屋の人夫といった風体である。
「表は大丈夫だろうね。誰もきやしなかっただろうね」
恩田がささやき声で尋ねる。