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にんげんひょう

人間豹

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页

青空文庫

「や、失敬失敬、人違いだったよ。もういいからそいつをかぶって、商売をはじめてくれたまえ」

明智がお詫びをして立ち去ろうとすると、チンドン屋は又エヘヘヘヘヘと笑いながら、「どうか、これを一枚」と、曲馬団の広告ビラをさし出すのであった。

明智はなにげなくそれを受け取ったが、ふと気がつくと、石版刷りの広告文の裏に、何か鉛筆でなぐり書きがしてあった。おや、変だぞ。新しいはずの広告ビラにこんなものが……と裏返して、そのいたずら書きに眼をそそいだかと思うと、明智の表情はみるみる緊張して行った。

明智君、文代さんは大丈夫かね。

おれは一度思い立った事は、あくまでやりとげる性分だよ。

見覚えのある筆癖、果たして虎と豹とはどっかで結びついていた。例によって奇抜な「人間豹」の通信手段であった。

「おい、君、これはまさか君が書いたんじゃあるまいね」

明智のするどい眼に睨みつけられて、虎男はオドオドしながら、また例のお追従笑いをした。

「エヘヘヘヘヘ、わたしじゃござんせん。つい今しがた、見知らぬかたにこう頼まれたんですよ。あの路地に待っていると、これこれこういう風采の人が今に通りかかるから、その人に渡してくれって、鉛筆でもってビラの裏へ何か書きつけて行ったのですよ」