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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
「そいつの風体は?」
明智は噛みつくように聞き返した。
「立派な旦那でしたよ。洋服を着た三十くらいの……」
「顔は? 顔は見覚えているだろうね」
「エヘヘヘヘヘ、そいつはどうもハッキリしませんね。その旦那は妙でしたよ。わたしに顔を見られたくないとみえて、面と向かうときには、必ずハンカチでもって鼻から下を押えてましたからね」
チンドン屋は、いかめしい将軍ひげにも似合わぬボンヤリ者らしく見えた。いくらか掴まされて、喜んでご用を勤めたのに違いない。
「チェッ、君は人間豹の噂を知らないと見えるね」
「えっ、人間豹ですって」
虎男はたまげた声を出した。いかにボンヤリ者でも、あの恐ろしい獣人の名を知らぬはずはないのだ。
「そうだよ。君が頼まれた男が、つまりその人間豹だったのさ」
明智は吐き出すように言って、
「そいつはどちらへ曲がって行ったのだい」
「こっちですよ」
チンドン屋はオドオドしながら、ずっと見通しの町筋を指さした。
「急いでいたんだね」
「ええ、走るようにして曲がって行きましたっけ。すると、あいつが噂の人間豹だったのですかねえ。ブルブルブル、ああ、おっかない」
「その辺に自動車が待たせてあったのかもしれない」