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にんげんひょう

人間豹

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页

青空文庫

明智は不覚にも不意を突かれて、身をかわす暇もなく、脳天に烈しい一撃を受けた。グラグラと天地が揺れるような感じ、たちまち眼界が闇に包まれて、地の底へ地の底へと落ちて行く。彼は気を失って、その場に倒れてしまったのだ。

「ウフフフフフ、ざまあ見ろ、名探偵さん、意気地がねえじゃねえか」

大男は足先で、明智のからだを突っつきながら毒口を叩いた。

「お二人さんお知合いと見えるね。ちょうどいいや、仲よくここで寝んねをしているんだね」

彼は用意の細引を取り出すと、死人のような探偵のからだを、グルグル巻きに縛り上げ、手拭を丸めて厳重な猿ぐつわをほどこした。

「こうしてね、あすの晩方まで我慢するんだ。あすの晩には万事O・Kってわけだからね」

男は二人のとりこを見おろしながら、さも得意らしくつぶやくのであった。

何が万事O・Kなのだ。あしたの晩にはこの二人が処分されるというのであろうか。それとも、もっと別な、一そう恐ろしい事柄を意味するのであろうか。

この大男は一体なにものであろう。むろん「人間豹」の手下には違いないのだが、大敵明智小五郎をこんな男に任せておくところをみると、人間豹自身には、何かのっぴきならぬ仕事があるのかもしれない。