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にんげんひょう

人間豹

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页

青空文庫

いや、しれないではない。読者諸君はよくご存知だ。彼は熊娘の番人を勤めている。どこかしら別の場所で熊の檻を見張っている。そして、今にも恐ろしい死刑に着手しようと、あの赤い唇をなめずりながら哄笑しているに違いないのだ。

ああ、文代さんの運命はいかになりゆくことであろう。可哀そうな彼女は、明智がこのような目にあっているとも知らず、檻の中で、くらい熊の毛皮の中で、一日千秋の思いをして、名探偵の奇蹟的な出現を待ち望んでいるのだ。

それにもかかわらず、当の名探偵は、いつさめるともなく、昏々と眠っている。眠った上にご丁寧にも身動きもできず縛られている。ああ彼は果たしてこの愛妻の期待を満たしてやることができるのであろうか。いかな明智の精神力をもってしても、機智をもってしても、この難局を切り抜けるのは、ほとんど絶望的なのではあるまいか。

明智小五郎よ。今こそ君の力をためす絶好の機会なのだ。そうして、うちのめされて、縛られて、君の魂がこの世のほかの暗闇をさまよっている今こそ、君の超人的精神力、魔術的機智を、根こそぎ動員しなければならないのだ。

喰うか喰われるか

明智は、まっ黒な重い水の中をもがき廻っていた。