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にんげんひょう

人間豹

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页

青空文庫

さいぜんからの話しぶりでもわかる通り、この拳闘選手みたいな大男は、悪人に似合わぬお人よしとみえる。

彼は寝ころんでいる明智の口へ、一本の金口の巻煙草をくわえさせて、マッチをすってやった。

「いや、ご苦労ご苦労、実にうまいよ。さあ、君も遠慮なくやりたまえ」

明智は青い煙をフーッと天井へ吹きつけながら、くわえ煙草で、ほがらかに勧める。

男はなかなかの煙草好きとみえて、薫りのよい煙を感じると、もう我慢できないといった調子で、自分も一本の金口を取って、火をつけ、いきなりスパスパとやり出した。

「ところでねえ、君、君はZ曲馬団というのを知らないかね」

明智はなにげない世間話のようにはじめた。

見ていると、妙なことに、彼はM・C・Cの煙を、惜しげもなくフーフーと吐き出すばかりで、深く吸い込む様子がない。ほんとうに煙草がほしかった人とも思われぬ仕草だ。

Z曲馬団と聞くと、男はなぜかドギマギして、あまりうまくない答え方をした。

「知らないよ。そんな曲馬団なんて」

「そうかい。たぶん知ってるだろうと思ったがねえ」

明智は眼を細くして、睫毛のあいだから、じっと男の様子を見つめていた。