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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
男はだまり込んで、むやみに煙草を吸っている。あまりにのんびりとしたテンポののろい会話、敵味方とも思われぬほがらかな情景、何かしら物憂い生暖かい空気が部屋を包んでいた。睡気をもよおすような一時が経過した。
「ハハハハハ、さて大将、いよいよお別れの時がきたようだね」
突然、明智が煙草の吸いさしを吐き出して、低く笑いながら言った。
だが、相手の男はこの暴言になんの答えをする力もなかった。
彼は煙草を持った手をダランと垂れて、ポカンと口をあいて、物憂い春霞の中に、さも心地よく舟を漕いでいた。コクリコクリと、居眠りの最中であった。
「神谷君、ご挨拶はあとです。僕らは助かりましたよ。こいつは眠ってしまったのです」
明智が今までとはうって変った緊張した声で、かたわらの青年に呼びかけた。
疲労のために、いくじなくグッタリしていた神谷青年は、この明智の声にハッと身を起こした。
「では、今の煙草に何か……」
「そうですよ。僕はいざという時の用意をおこたったことはありません。僕の内ポケットには、どんな時でも必らず二本のウェストミンスターかM・C・Cの、強い麻酔剤を仕込んだ巻煙草が、ちゃんとはいっているのですよ。