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のぶこ
伸子
宮本 百合子
「改造」1924(大正13)年9月号~1926(大正15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,543 字 · 466 页
思い定めたこれからの生活法――心持の上では、夫にたよらず自力で立とうということも、まんざら見込みないこととも思われない。――伸子は、自分の心持がそこへ来るまでの、渾沌と動揺した気持を書いたのであった。その作品は、文学的にはたいして重きを置かれていない、ある政治雑誌の附録に載せられた。
掲載号を送ってよこした日であった。伸子は、活字になった自分のものを読みかえしながら、机の前で考えに耽っていた。すると、表の格子戸が開いた。伸子は独りっきりでいる昼間、がらりと格子の音がすると、あたりの空気を衝き動かされるような不安を感じた。そのようにして来るのは、乞食声を出す、押強い物売りか何かにきまっていた。障子をあけかけたが、土間に立っている者を認めると、
「なあんだ!」
と、現金に声まで変えて、伸子は嬉しそうに立ち上った。
「いやなひと! 誰かと思ったじゃあないの」
和一郎であった。
「今日は。――ちょっと本当のお客の真似をして見たのさ」
「おあがんなさい」
「……有難う……」
伸子は、彼の躊躇するらしい様子をいぶかった。
「なぜ? いそぐの? それともオウトバイが心配?」