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のぶこ
伸子
宮本 百合子
「改造」1924(大正13)年9月号~1926(大正15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,543 字 · 466 页
「そりゃあいいけれどね、今日は迎えに来たのよ」
「……――でもいいじゃあないの」
和一郎は上ったが、落着かなかった。彼は、
「いそがしい? 来られない?」
と訊いた。
「――行かれないことはないけれど……何か用なの?」
彼女は、呼びつけられるのはすきでなかった。たとい、その日出かける気でいても、不意に誰かを迎えによこされ、今直ぐ来いと云われると、気が渋るのであった。
「お母さんが、話があるんだって」
話があるというのは多計代の慣用手段なので、云う和一郎も、聞く伸子も、思わず一種の可笑しさを感じて笑った。
「そりゃあ、話があるにはきまっているけれどさ」
「今日は、でも少しむきよ」
「何なの」
和一郎は、云いにくそうに、不器用に云った。
「姉さんが今度書いたもの、それを読んで、文句があるんだって」
「ふうむ」
伸子は、心の中でひととおり考え、一箇所だけ、それかと思うところを思いあてた。それは、主人公の女の夫に対して、女の母が、ある反感、敵意に似たものをもっていると云う僅かの部分であった。若し母が何か云おうとするなら、恐らくそこ以外にはあるまい。
「じゃあ行こう」
伸子は立って支度をした。