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ようちゅう
妖虫
江戸川 乱歩
「キング」大日本雄弁会講談社、1933(昭和8)年12月~1934(昭和9)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,290 字 · 239 页
「ア、誰か梯子を昇って行く。お巡りさんだ。お巡りさんだ。今に正体が分りますよ。あれがどこの娘だか」
如何にもその時、報告に接して駈けつけた一人の警官が、靴を脱いで、慣れぬ煙突昇りをやっていた。彼も亦、何かしら突飛な犯罪事件に相違ないと考えたからだ。
警官がやっと頂上に昇りつくと、びっくりする程美しい女の足が、大空を背景にして、実に不作法な恰好で、すぐ目の前にニュッと突出していた。
その裸体の足をかすめて、薄い煙がモヤモヤと立昇っていた。ムッと鼻をつく火気が感じられた。
「俺一人じゃ迚もおろせないぞ。町内の仕事師でも頼まなくっちゃあ。だが、兎も角様子を見て見よう。まだ助かるかも知れない」
彼は用心深く、熱い煙突の縁につかまって、煙をよけながら、ソッと中を覗いて見た。
そこには、二本の脚に続いて、娘の胴体が、多分真裸体の胴体が、ある筈であった。ところが、実に不思議なことには、いくら見直しても、煙突の内部は、真黒な煤ばかりで、あるべき筈の娘の胴体は、何かの幻術でかき消しでもした様に、全く見えないのであった。
胴体は勿論、顔も、手も、なんにもなくて、ただ太腿からの両脚だけが、煙突の縁を支えにして、斜に突込んであるばかりであった。